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あの出会いは、もしかしたら恋のはじまりだったのかもしれない


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記事:39さま(ライティング・ゼミ)

もう半年、まだ半年。

6か月をどうとらえるかは、人それぞれだと思うが、
私にはこの半年を、“もう”といっていいのか“まだ”と言っていいのかはわからない。

もう半年、というほど半年前の私と今の私は変わっていないし、
まだ半年、というほど半年前の私と今の私は同じでもない。

とはいえ、そんなことを考えられるということは、
何か変わりたいと思っている私がいることも、変われていない私がいることも、きっと事実なのだ。

半年前、私は、ずっとためらっていた一歩を踏み出したのだ。

そして、出会ってしまった。

彼女に。

その日、私はようやく一大決心をして、ライティングゼミの前身であるライティングラボに参加していた。

ライティングラボというものがあることは知っていた。
さらに、前々から気になっていて、参加してみたいとも思っていたのだ。
でも、ライティングなんて縁のない私が行っていいのだろうか、
ただのしがないOLで、プライベートでブログを書いているわけでもないし、恥ずかしながらそんなに本が好きなわけでもない。でも、何か気になる。
気にはなるけど、私には場違いだったらどうしよう。でも気になる。

好奇心と不安の渦に長いことぐるぐると巻かれていた私は、
“行きたいけど行くの怖い”という渦巻きがめんどくさくなり、
ついに、えいやっと参加ボタンを押してしまったのだ。

しかし、いざ参加を決心しても不安はぬぐえなかった。

50名ほどの参加者が来ることは知っていたが、どんな人が来るかは知らない。

iBookをひろげて、スタバのカップ片手に、ネイビーのちょっとだけ裾の短いパンツからおしゃれな靴下をのぞかせて、明るい茶色の革靴を履いた男性とか

ロングヘアを片側にまとめて降ろして、白いタイトスカートに黒のスタンドカラーのシャツにピンヒールを履いて、革の手帳とモンブランのペンでメモをとる女性とか

そんな、オシャレとクールと知的が服を着て歩いているような人ばかりだったら、どうしようかと思っていた。

なにせ、こちらは長い間悩んでいた割には、当日、会社のトイレで「こんなに悩んでるなら行ってしまえ!やらぬ後悔よりやって後悔だ!」ノリと勢いで、参加ボタンを押してしまったのだ。

悩んでいたとはいえ、まさか自分が本当にライティングラボに行くとは思っていない。
当日の服装はジーパンにネルシャツにメガネ。コンタクトすらいれていない手の抜きっぷりだ。
持ち物はロルバーンの手帳と、取引先さんの社名の入ったボールペン。
武装が足りていない。
あまりにも、足りていない。丸腰ではないか。

使わなかったとしても、ハッタリ用にタブレットもってきておけばよかった
とか
せめてスタバに寄ってから行こうか
とか
そんなしょうもないことを考えつつも、とにかく早く会場に行っておきたくて、かなり早い時間に会場入りを果たしてしまった。

私の講義室でのお気に入りのポジション、前から2列目の壁側も確保した。

ふと見渡せば、思っていたような感じの悪そうな人はいなかった。

Macを広げている人もいないし、ピンヒールの人もいない。
むしろちょっとアナログな感じで、どちらかというと無印のペンケースとノートを広げていたり、
きっと毎日持ち歩いているのだろう、シックなブックカバーをまとった文庫本を読んでいる人がいたり。

なんだ、ライティングラボに来る人はちょっと近寄りがたい人と思い込んでいただけだったのか。
そんな風に思えたら、集まってきた人にちょっとだけ親近感がもてて、安心した。

そして、思い出してしまった。
私、おなかがすいている。

思い返せば、おなかがすいていても仕方がない。
周りの空気に飲み込まれないうちに、少しでも会場に早く入っておきたかったから、会社は定時であがって、ほぼ小走りで池袋駅から会場まで来たのだ。
定時で上がれるように、いつもは欠かさない3時のおやつもすっかり忘れていた。

まだ、始まるまでに時間がある。
よし、コンビニでも行くか。

そう思い立った者の、一番近いコンビニがわからない。

池袋にコンビニがたくさんあることは知っているが、“ここから一番近いコンビニ”がどれかわからない。

きっとスタッフなら何か知っているだろう。
そう思い、近くのスタッフに聞いてみた。

「すいません、ここから一番近いコンビニってどこですかね」

彼女は、すぐにスマホを取り出し、調べてくれた。

調べる、ということは、どうやら彼女もわからないらしい。

ああ、申し訳ない。
それなら自分で調べればよかったのに。

と思いながらも、会社帰りにきているからおなかがすいている話で、ちょっと盛り上がる。

どうやらコンビニは近いことには近いが、思っていたよりは少し距離がありそうだった。

「始まるまで時間あるし、おなかすいちゃうので、ちょっと外出てきますね」

そんなことを言って、会場の外に出ようとしたのだが、
なんとなく気になってもう一言付け加えてしまった。

「なんなら、何か一緒に買ってきましょうか?」

さっき少し盛り上がった話では、彼女も仕事帰りに来ているから昼から何も食べていないと言っていた。
なんだか、1人だけコンビニに行っておなかを満たすのは抜け駆けしているようで、フェアじゃない気がした。

自然と言ってしまった私の言葉に、彼女は目を輝かせて

「いいんですか!?」
と食いつく。

しかし、すぐに
「お客さんに買ってきてもらうわけにはいかないか」

と少し困り顔。

おなかはすいたけど、お客さんに買いに行ってもらうのは気が引ける、持ち場を離れるわけにもいかない。でも……おなかがすいた。
そんな葛藤が手に取るようにわかり、
なんだか、その様子にとても親しみがもててしまって、私は決めた。

「いいですよ、そんなこと気にしないので、何か買ってきますね!」

悪いです、と言いながら、彼女はちゃっかり財布を取り出し、いくらかの小銭を渡してくれた。

やっぱりおなかすいてたんじゃん。
なにか食べたかったんじゃん。

仕方ないなぁ~

コンビニまでの道すがら、なぜか気分は少し浮足立っていて、ふふふん、と鼻歌を歌ってしまいそうだった。何より、コンビニまで小走りだった。

初めてのおつかいというべきか
パシリというべきか、それはわからないが、
なんだか、これから始まるライティングラボの幸先が良い気がしてきていた。

しかし、コンビニの冷蔵ケースの前に立って気づく。

好みがわからない。

いや、好きなものがわからなくてもいいが、嫌いなものもわからない。

BLTサンドを買って帰って、トマト嫌いだったらどうしようか。
ツナマヨのおにぎりを買って、マヨネーズ嫌いだったらどうしようか。
そもそも、おにぎり派なのかサンドイッチ派なのかもわからない。

おにぎり派だったとして、パリッと手巻きの海苔のおにぎりがいいのか、海苔が巻いてある袋入りのおにぎりがいいのかわからない。
サンドイッチ派だったとしても、白い三角のサンドイッチがいいのか、バンズに挟まれたタイプのサンドイッチがいいのかわからない。

預かった小銭も、おにぎり2個やサンドイッチを買うよりは少し多いから、飲み物も買って帰ろうか。
しかし、コーヒーがいいか、ペットボトルのお茶がいいか、スポーツドリンクがいいのか水がいいのか。わからない。

彼女の様子を必死に思い出して、好みを探ろうとするも、
やはり初対面で二言、三言交わした程度では無理があった。

コンビニまでくる間の、鼻歌に小走りのご機嫌モードはどこかへ行き、
とりあえず、で買いそろえたサンドイッチとおにぎりとコーヒーとお茶と、それから彼女の期待に添えていないんじゃないかという不安を抱えての帰り道になった。

買って帰ったものは日本人のだいたいは嫌いではないラインナップだったと思う。

わかめごはんのおにぎり、ミックスサンド、シリアルバーにコーヒーと水。

そんなところだ。

サンドイッチ派だったら、サンドイッチとコーヒーを、さらに空腹度によってはシリアルバーを選んでもらえばいいし、
おにぎり派だったら、おにぎりと水を選んでもらえばいい。
サンドイッチもおにぎりも嫌いな具だったら、シリアルバーを選んでもらえばいい。

コンビニの冷蔵ケースの前で立ち尽くした私が出した答えは、
どう転んでもどうにかなりそうなものをそろえる、というものだった。

実際、ラインナップを見た彼女の様子から察するに、
好みにドストライクではまってはいないかもしれないが、
大きく外したわけでもなさそうだった。

初対面の人の軽食を買いにいく、という初体験
まぁ、合格点だろう。

満点の会頭でなかったとはいえ、二言三言の会話から相手の好きなもの嫌いなものを想像して、さらに嫌いなものを選んでしまった際のう回路まで用意する、
という今回のおつかいは、私にとって、かわいい系が好きかキレイ系が好きかわからない人との初デートに着ていく服を選ぶような、久しぶりにくすぐったくなるような経験だった。

そんなことがあってから、1か月後だろうか。

その彼女が、チーム天狼院に仲間入りしたことを知った。

あの時は名前も知らなかったけれど、店主が彼女を紹介する記事を書いてすぐにわかった。

おにぎりの人だ!!!

おなかがすいたけど、買いに行ってもらうのは気が引ける、
と困っていた彼女の様子が、すぐに思い浮かんで、店主の記事を読んでニヤリとしてしまった。

それからというもの、彼女がいると思うと、天狼院がそれまでよりもずっとずっと親しみやすい場所になった。

ライティングラボに参加するときは、あんなにビビっていたのに
ライティングゼミへの参加は、さほど悩まずに踏み出すことができた。

Facebookやスタッフの記事のなかで、よく目にする彼女の姿に、私は他のスタッフさんとは違う親近感をもってしまう。

あの時はなんとなく近くにいて声をかけただけだったけれど、
今度はちゃんと話をしてみたい。どんな人なのか知りたい。

まるで恋しているみたいだが、本当にそんなことを思うようにもなった。

そのきっかけはもちろん“初対面の人のごはんを買いに行く”というあの経験だ。

しかし、きっかけは何であれ、私にとって天狼院に足を運ぶ理由の一つに彼女の存在があることは間違いない。

彼女がいるから、また天狼院に行こう。
今日、天狼院にいったら彼女がいるだろうか

そんな風に思うことができる。

そんな風に思って、半年。

ようやく、彼女に会えた。

ふらりと寄ったときに、打ち合わせをしている彼女を見かけることはあったが、
なんだか忙しそうだなと思って声をかけなかったこともある。

でも、先日はカウンターに入っていたスタッフさんに
「いまむーさんいますか?」
と聞いてしまった。
恥ずかしながら、“彼女に会いに”天狼院に行った。

仕事の手を止めて出てきてくれた彼女は、おにぎりの人ではなく天狼院の社員さんだった。

実際に話して、働いている姿を見て、偉そうなことを言うと“仕事をこなす”人じゃないんだなと思った。とても丁寧に仕事をして、その姿は輝いていた。
同じ社会人として憧れと、ちょっとしたうらやましさも感じつつ、やっぱり“おにぎりの人”の親しみもあり、とても魅力的だと思った。
それはFacebookやTwitterではわかるようでわからなかったこと。

会いに来て、本当によかったと思った。

Facebookでつながっているのも、LINEのやりとりをするのも、メールも電話もいいけれど、
百聞は一見に如かずという言葉もあるように“会う”ということにはすごいパワーがある。

言葉では元気なことを言っていても、表情が暗いことだって
いつも満ち足りた暮らしをしていそうでも、何か不安や悩みを抱えていることだって、
会うとわかること、は不思議と多くある。

逆に、心配になるくらい落ち込んでいそうだったのに、思っていたより元気そうで安心するのも、会ってわかることだ。

『最近どうしてる?』
そんな短いメッセージのやりとりは、日本全国、いや世界中どこにいたってできる。

でも、もし許されるなら『最近どうしてる?顔見に来たよ』と離れて暮らす友人を訪ねたくなった。
北は北海道、南は沖縄まで、はたまた海外でも、そこで暮らす友人がせっかくいるのなら、
近況報告でもしあいながら、おいしいごはんを食べるのも旅に出る立派な理由になるかもしれない。
近くにいるのになかなか会えていない友人に、“会いに”行くのもいいかもしれない。

会ったからわかること、会ったから話せること、そういう人と人とのつながりが、絆っていうものになるのではないだろうか。

そして、願わくば自分のところにも、誰かがふらりと立ち寄ってくれますように。

そのために、まずは私が、私の住む街が、だれかにとって魅力あるものになろう。
いつか誰かがふらりと立ち寄ってくれたとき、“来てよかった”と思ってもらえるように、この街のいいところをたくさん探してみよう。

ちなみに、私が『いまむーさんいますか?』と聞いたスタッフさん。
あんまり見たことない顔だし、新しいインターンの子かな……
と思っていた人は、私が天狼院を知るきっかけになり、しかも物を書くきっかけにもなった川代さんだった。

ああ、また天狼院にいく理由が増えてしまった。

 

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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